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福井地方裁判所敦賀支部 昭和44年(ワ)33号 判決

原告

畠幸作

被告

末友勝一

ほか一名

主文

被告らは原告に対し、各自一、五五四、八二八円およびこれに対する昭和四四年一二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決の原告勝訴部分は、原告において被告らのため各金五〇〇、〇〇〇円の担保を供するときはその被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告の申立

「被告らは原告に対し、各自金二、九六八、〇四四円およびこれに対する昭和四四年一二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」

との判決および仮執行の宣言を求める。

二  被告らの申立

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  事故の発生

被告末友勝一は昭和四二年四月二二日午後一〇時三〇分ごろ、軽四輪乗用自動車(八福井う一二四七号、以下加害車両という)を運転して、敦賀市松栄町一一の一七番地先の十字路交差点を左折進行した際、右方道路から進行してきた原告運転の原動機付自転車と衝突してこれを転倒させ、その際の衝撃により原告に対し入院加療二三三日、通院加療二三〇日を要する頸部・右上膊・左肘関節・腰部・左足関節各捻挫、左第二ないし第四指挫傷の傷害を負わせた。

2  被告末友の責任

右交通事故現場は、交通整理の行われていない、左右の見通しのきかない十字路交差点であるから、このような交差点に進入するに際し自動車運転者は左右道路の安全を確認して進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、被告末友はこれを怠り漫然時速約一〇キロメートルで右交差点内へ進入した過失により右事故をひき起したものであるから、同被告は民法第七〇九条により右事故に起因して発生した損害を賠償する義務がある。

3  被告矢部の責任

本件事故当時、被告矢部は敦賀市長選挙に立候補していたものであるところ、本件加害車両は所有者である訴外馬路久男によつて同被告の選挙運動の用に供するため運動期間中約一週間ほどの間同被告宅に寄託され、その間同被告宅に出入する運動員であれば誰もがそれを使用し得る状態で備え置かれ、実際に各運動員は必要に応じてこれを使用していたものである。本件事故は、選挙運動応援のため同被告宅に出入していた被告末友が、たまたまある選挙運動員(氏名不詳)の指示によつて、被告矢部を訪れた来客を帰り先へ送り届けるため右車両を運転した際に発生したものである。

右事実関係によれば、本件事故当時加害車両に対する運行支配は被告矢部がこれを有していたというべきであり、また同被告は、各運動員が右車両を利用して選挙運動をおこなうことにより有形無形の利益を得ていたものであるから、その運行利益もまた同被告に帰属していたというべきである。

従つて、同被告は自動車損害賠償保障法第三条により、本件加害車両の運行供用者として本件事故に起因して発生した損害を賠償する義務がある。

4  損害

イ 財産的損害

(一) 積極損害

(1) 病院等に対する支払

原告は本件事故による負傷の治療のため、事故当日から昭和四二年五月二日まで、敦賀市松島町の川上医院に通院したが、経過が思わしくないので、同月三日から同年七月六日まで同病院に入院し、退院後も通院して治療につとめたがなお経過が良好でないので、同年一一月二七日から翌四三年五月一二日まで再入院し、再退院後昭和四四年一一月一九日まで通院した。

その間に原告は小浜ホネツギ診療所に一三回、敦賀市の野路鍼灸マツサージ院に一〇回通つてマツサージ等の治療を受け、金沢大学附属病院へ八回、大阪厚生年金病院へ二回、敦賀市の神谷整形外科病院へ一回、福井市の山田外科病院へ一回赴いて精密検査を受け、さらに、川上医院に入院中のある期間医師川上正志の指示によつて敦賀トンネル温泉に通つて温泉療養をした。

これらの治療、検査等を受けるため支払わなければならなかつた金額は次のとおりである。

(イ) 川上医院関係 四四二、一三六円

(ロ) トンネル温泉関係(交通費を含む。) 六、三九〇円

(ハ) 野路鍼灸マツサージ院関係 六、〇〇〇円

(ニ) 小浜ホネツギ診療所関係 六、五〇〇円

(ホ) 大阪厚生年金病院関係 一、六四〇円

(ヘ) 山田外科病院関係 八、九四八円

(ト) 神谷整形外科病院関係 一、六〇八円

(チ) 金沢大学附属病院関係 一〇、四九四円

合計 四八三、七一六円

(2) 右治療等のため要した交通費等は次のとおりである。

(イ) 川上医院関係 一六五、六〇〇円

(通院期間中のバス料金)

(ロ) 小浜ホネツギ診療所関係 五、四六〇円

(敦賀・小浜間汽車賃一三往復分)

(ハ) 大阪厚生年金病院関係 三、六八〇円

(敦賀・大阪間汽車賃二往復分)

(ニ) 山田外科病院関係 六八〇円

(敦賀・福井間汽車賃一往復分)

(ホ) 神谷整形外科病院関係 一二〇円

(ヘ) 金沢大学附属病院関係 一八、三〇四円

(金沢駅・病院間のタクシー代、敦賀・金沢間の汽車賃五往復分、旅館代)

合計 一九三、八四四円

(3) 諸雑費

(イ) 川上病院入院中の諸雑費 四六、六〇〇円

(一日二〇〇円として二三三日分)

(ロ) テレビ賃借料 一五、一〇〇円

(4) 入院中の栄養補給費 四、四〇〇円

(5) コルセツト代 七、五〇〇円

(6) 農繁期雇人手間代

原告は漁業のかたわら従来は家族だけで作付面積四反ほどの田を耕作していたが、本件事故による受傷のため、原告が農作業に従事できなくなつたので、昭和四二年と四三年の田植え時や秋の収穫期には延べ六九名の人頼みをせざるを得なくなり、これに要した費用は九一、三〇〇円である。この費用は本件事故に基因する損害というべきである。

(7) 弁護士費用

原告は被告らが本件事故による損害賠償残額の支払につき誠意を示さないので、原告訴訟代理人に対し本訴提起を委任し、その手数料として金一〇〇、〇〇〇円を支払い、謝金として判決言渡の日に金二〇〇、〇〇〇円を支払うことを約束した。右弁護士費用は本件事故により通常生ずべき損害といわなければならない。

(二) 消極損害

原告は本件事故によつて負傷しなかつたならば、左記のような収入を得ていたはずである。従つて左記収入を得られなかつたことは本件事故に起因する損害といわなければならない。

(1) 個人漁獲水揚高

原告は肩書住所地で農、漁業を営む者であるが、昭和四一年度の個人の年間漁獲水揚高は二七六、一七二円であつた。本件事故のため出漁できなかつた四二年度および四三年度にも同程度の水揚が予想されたから、両年度あわせて五五二、三四四円の収入が見込まれた。

(2) 大綱休業損

原告は白木漁家組合の組合員として、毎年三月初めから九月末ごろまでの間右組合の大網漁に参加し、右組合から給与を支給されていたもので、昭和四二年度に参加していれば一四五、〇五〇円、昭和四三年度に参加していれば一六一、〇〇〇円の給与が支給されるはずであつた。

(3) 松重工業所関係

原告は昭和四二年一〇月から翌四三年二月までの間松重工業所に雇われて月額四七、五〇〇円の給与が支給されることに同工業所との間で雇傭契約が成立していたから、本件事故がなかつたら五ケ月分として二三七、五〇〇円の給与を得ていたはずである。

(4) シイタケ栽培関係

原告はシイタケの栽培を計画し、原木、種菌を購入してあつたところ、本件事故がなかつたら昭和四二年度には一九二、六九〇円、昭和四三年度には一〇八、〇〇〇円の純益が得られたはずである。

ロ 精神的損害

原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛は甚大でありその損害を金銭に換算すると九二九、〇〇〇円に相当する。

5  弁済等

イ 原告は被告末友から本件損害賠償債務の一部弁済として金三七、五六五円の支払を受けた。

ロ 原告は自動車損害賠償保障法による損害賠償額四六二、四三五円の支給を受けた。

6  結論

よつて、被告らはいずれも原告に対し、4記載の損害総額三、四六八、〇四四円から5記載の弁済等の金額を差引いた金額二、九六八、〇四四円を本件事故に基く損害賠償金として支払う義務を負うものであるから、原告は被告らに対し各自右金額およびこれに対する履行期後である昭和四四年一二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は、原告の受傷の程度を争うほか、これを認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の主張は争う。即ち、本件加害車両が被告矢部の選挙事務所前に置かれていたのは、同被告の指示によるものではなく、またその選挙運動員の指示によるものでもない。

4  請求原因4の主張は争う。

5  請求原因5の事実は認める。

三  抗弁

本件事故は被告末友の過失のみによつて生じたものではなく原告にも相当の過失がある。即ち、本件事故現場は交通整理のおこなわれていない左右の見とおしのきかない十字路交差点であるから、ここに進入するすべての車両は徐行義務を負い、そのうえ、当時原告は左方道路上で一旦停止した加害車両の前照灯の光芒を認識できたはずであるから、なおさら、あらかじめ徐行して左右道路の安全をたしかめる義務があつたのに、これな怠り漫然同一速度で進行したものである。

もつともこの点については、原告には広路進行車両としての優先権があるから徐行義務はないとの反論が予想されるが、広路優先権の有無は道路幅の実測値の比較のみによつて判断すべきものではなく、運転者にとつて広狭の差が一見して顕著であるかどうかを考慮しなければならないのであつて、これを本件についてみるに、被告末友は自己の進行する道路が原告の進行する道路にくらべて若干狭いとは考えていたが、顕著な差異があるという実感は有していなかつたもので、このような場合原告に広路優先権はないといわなければならない。

四  抗弁に対する答弁

原告の過失相殺の主張はこれを争う。即ち、道路交通法第三六条所定の広路優先権があるときは、同法第四二条所定の徐行義務はない。本件現場において原告進行道路は被告進行道路の約二倍の幅員を有するのであつて、前者は後者に比べて明らかに広いといわなければならない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

被告末友勝一は昭和四二年四月二二日午後一〇時三〇分ごろ、軽四輪乗用自動車(八福井う一二四七号、以下本件加害車両という)を運転して、敦賀市松栄町一一の一七番地先の十字路交差点を左折進行した際、右方道路から進行してきた原告運転の原動機付自転車と衝突してこれを転倒させ、その際の衝撃により原告に対し傷害を負わせたことは当事者間に争いがない。

二  傷害の程度および治療の経過

〔証拠略〕によれば、原告は前記事故により左第二ないし第四指挫傷、左肘関節、頸部、右上膊、腰部、左足関節各捻挫の傷害を負い、直ちに敦賀市松島町の川上医院において医師川上正志の手当を受け、以後昭和四二年五月二日まで(実日数一一日)は右川上医院に通院し、同月三日から同年七月六日まで(六五日間)は同医院に入院して右傷害に対する治療を受けたこと、退院時においては指の挫傷は殆んど治癒し、捻挫も部分的には軽快したが、頸部、腰部の痛みが退消しなかつたのでさらに通院(実日数五七日)して治療を続けたこと、それでもなお経過が良好でないので同年一一月二七日から昭和四三年五月一二日まで(一六八日間)再度同医院に入院して治療を受けたこと、再退院後も昭和四四年一一月一九日まで(実日数一六二日)通院して治療を受けたこと、その結果症状はかなり軽快したことが認められる。

三  被告末友の責任

〔証拠略〕によれば、被告末友は前記十字路交差点を左折するに際し、交差点手前で一時停止はしたものの、右方道路を充分に注視しなかつた過失により、原告運転車両の進行に気付かないまま発進し、その結果前記衝突を招いたものであることが認められる。従つて同被告には本件事故によつて原告が蒙つた損害を賠償する義務がある。

四  被告矢部の責任

〔証拠略〕によれば、本件加害車両は事故当時右馬路久男の所有に属したこと、同人は同じ町内に住む被告矢部が当時敦賀市長選挙に立候補し、選挙運動をおこなつていたことから、自己所有の自動車を被告矢部の選挙運動に役立ててもらおうと考え、事故発生の数日前本件加害車両を敦賀市松栄町の被告矢部宅へ持参し、たまたま同所に居合せた選挙運動員池田文治に対し、右車両を選挙運動のため自由に使用してほしい旨話し、エンジンキーを付けたまま右車両を同被告宅前に置いて帰つたことが認められる。〔証拠略〕によれば、その後右車両は何人かによつて同市津内町にある被告矢部の選挙事務所前に運ばれたこと、同じような趣旨で提供された車両は他にも多数存在し、本件加害車両を含めこれら車両は不特定の選挙運動者が適宜これを利用できる状態で選挙事務所前に置かれていたこと、被告末友は被告矢部の近隣に住む者のよしみで右選挙事務所に出入し、上部運動員の指示を受けて雑用に従事していたものであるが、たまたま氏名不詳の運動員から、右選挙事務所を訪れた来客の帰途を事務所前に置いてある自動車を使用して送ることを命じられたので、多数ある車両の中から本件加害車両を選んで右来客を市内松栄町まで送り届け、事務所に戻る途中本件事故をひき起したものであることが認められる。

このような事実関係において、事故当時右車両に対する馬路久男の運行支配が完全に失われていたとみるべきかどうかはにわかに断定し難いが、少くとも右車両に対する現実的支配は被告矢部の選挙運動者集団がこれを有していたことは否定できない。そして〔証拠略〕によれば、同被告の選挙運動は、選挙運動が一般にそうであるように、候補者の意を受けた少数の幹部運動員の統制下におこなわれていたと認められるから、右選挙運動者集団による車両支配の状態は、個々の運動者の個人的行為の単純な集積ではなく、幹部運動員の意思によつて組織化された運動者集団がいわば集団自体として支配を有する状態であつたと認められる。もつとも選挙運動者集団における幹部の統制は必ずしも選挙運動の全面に及ぶとは限らないから、事柄によつては末端の運動員の行動を直ちに組織自体の活動とみることができない場合もあり得るけれども、自動車の提供は公職選挙法第一四章の規制を受ける寄附の一種であること、自動車利用の態様は同法第一四一条の主として選挙運動のために使用される自動車の台数制限にも関係することであるから、選挙運動における自動車利用の状況は、総括主宰者または出納責任者においてこれを把握しているのが常態であり、法の要請でもある。従つて特段の事実主張を伴わずに単に本件加害車両の使用は幹部運動員の関知しないところであると主張しても、主張自体合理性に乏しく、前記認定を左右することはできない。

ところで、運行供用者責任の所在を最終的に確定するには、右のようないわば外形的な観察に止まらず、さらに進んで自動車所有者との間の車両使用に関する契約関係、選挙運動組織内部の指揮命令系統等を検討しなければならないと解されるが、かりに事故の被害者の側で相手方の内部事情に属するこれらのことがらを詳細に立証しなければならないとするならば、被害者は過大な立証の負担を負うことになり正当でない。そこで、選挙運動者集団による車両支配の事実が前記程度に認められる場合には、候補者は自らまたは総括主宰者を介して自己のための選挙運動組織に対し統制力を有するのが一般であること、自動車の利用により選挙運動の機動性が増すことは直接候補者自身の利益につながることにてらし、特段の事情のない限り、候補者自身が当該車両の運行供用者であるものと事実上推定され、右推定を覆えす具体的事情は候補者の側で立証しなければならないと解するのが相当である。

そうすると、右事実上の推定を覆えすに足る特段の事情の認められない本件においては、被告矢部は、自動車損害賠償保障法第三条に基き、本件交通事故によつて原告が蒙つた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

五  損害

1  財産的損害

イ  積極損害

(一) 病院等に対する支払および交通費

(1) 川上医院関係

〔証拠略〕によれば、原告が本件事故による傷害の治療のため、医師川上正志に医療費として支払つた金額および今後支払うべき金額は二八六、五五二円であることが認められる。原告主張の金額中右金額を超過する部分は国民健康保険によつて支払われたものであり、原告の損害とは認められない。

〔証拠略〕によれば、原告宅から川上医院へ通院するための往復のバス料金は二六〇円であることが認められ、前認定の通院状況によれば合計二三〇回往復したことになるから、右通院のための交通費は五九、八〇〇円になる。

(2) トンネル温泉関係

〔証拠略〕によれば、原告は川上医院に通院中温泉治療のため敦賀トンネル温泉に通い、交通費を含めて六、三九〇円の支出をしたことが認められる。〔証拠略〕によれば、右温泉治療は医師である同証人において積極的に指示したものではないが、原告の申出によりある程度の治療効果を期待して承認を与えたものであることが認められるから、右支出は本件交通事故に因る損害と認めるのが相当である。

(3) 金沢大学附属病院関係

〔証拠略〕によれば、原告は金沢大学附属病院へ数回通院し、診療費として一〇、四九四円を支払つたことが認められる。そして〔証拠略〕によれば、右通院は精密検査を受ける必要上主治医川上正志の了解のもとにおこなわれたものと認められるから、右診療費は全額につき本件交通事故による損害と認めるのが相当である。

〔証拠略〕によれば、原告は右通院に附随する費用として、敦賀金沢間の汽車賃(急行料金を含む)五往復分として七、五〇〇円、金沢市内のタクシー代として三、九四〇円、旅館代として六、八六四円を支出したことが認められ、右支出もまた本件交通事故による損害と認めるのが相当である。

(4) その他

〔証拠略〕によれば、原告は前記各診療のほかに、野路鍼灸マツサージ院、小浜ホネツギ診療所、大阪厚生年金病院、山田外科病院、神谷整形外科病院において診療を受け、その費用として交通費を含め三四、六三六円の支出をしていることが認められる。これらの診療はその必要性、効果、川上医院における治療との関連性などが証拠上明らかでないが、ある医師による診療がはかばかしい効果を示さないとき、これを継続しながら他の診療機関の診療を受けてみることも一概に不必要とは言い切れず、また病人の自然な必理に基く行動でもあるから、諸般の事情に鑑み、右支出中二〇、〇〇〇円につき本件交通事故との因果関係を認めるのが相当である。

(二) 諸雑費

前認定の入院状況によれば、入院日数は合計二三三日となり、〔証拠略〕によれば、入院期間中に要した諸雑費は栄養補給費を含めて一日当り一三〇円程度であつたことが認められるから、合計三〇、二九〇円について本件交通事故との因果関係を認める。

なお、入院中のテレビ賃借料については本件交通事故による損害と認めない。

(三) コルセツト代

〔証拠略〕によれば、原告は川上医師の指示によつてコルセツトを着用するにあたり、七、五〇〇円でこれを購入したことが認められるから、右支出は本件事故による損害と認めるのが相当である。

(四) 農繁期における雇人手間代

〔証拠略〕によれば、原告は家族とともに田四反余を耕作していたが、本件事故による負傷のため農作業に従事できなくなり、昭和四二年四、五月の農繁期には手不足を補うため二三日間にわたり一人当り一、二〇〇円ないし一、三〇〇円の日当で人雇いをせざるを得なくなつたことが認められる。従つてこれに要した費用二八、一〇〇〇円は本件交通事故による損害と認めるのが相当である。

原告は四二年秋、四三年春秋にも同様の支出を余儀なくされた旨主張するが、これを認めるに足りる適確な証拠はない。また原告は費用を算出するに当り、一日に数人雇つた場合その延べ人数を主張するが、一人分の労働力の補充に要する費用を考える際、延べ人数を用いることは不当である。

ロ  消極損害

(一) 漁業収入

〔証拠略〕によれば、原告は漁業を主たる職業とするものであること、その収入は自己所有の小型漁船を用いて水揚げした漁獲物の売上による収入と漁業組合に所属して労務を提供することによつて得られる給与収入とに分かれること、原告は本件交通事故による受傷のため昭和四二年と昭和四三年には右いずれの収入も得られなかつたことが認められる。

〔証拠略〕によれば事故の前年である昭和四一年における個人の漁獲売上高は二七六、一七二円であつたことが認められるから、特段の事情のない限り、昭和四二年、昭和四三年においても同程度の漁獲売上を期待し得たものと認められる。従つて原告は本件事故により同額の得べかりし売上金収入を失つたことになるが、右金額は必要経費の回収分を含むものであるから、直ちにその金額を損害とみることはできない。必要経費に関する証拠資料は極めて乏しいが、出漁しないことによつて直ちに節減可能な経費は燃料等極く一部であること、船舶は必ずしも使用しなかつた期間だけ耐用年数が延びるとは限らないこと、漁具は使用しなくてもかなり損耗するものであること等を考慮すると、損害額算定に際し控除すべき金額はさほど大きなものとは考えられない。よつて右得べかりし収入の喪失のうち昭和四二年分、昭和四三年分あわせて五〇〇、〇〇〇円につき本件交通事故との間に因果関係を認めるのが相当である。

〔証拠略〕によれば、原告が昭和四二年および昭和四三年において、白木漁家組合の組合員として労務の提供をしていれば、両年度あわせて三〇六、〇五〇円の給与収入を得ていたであろうことが認められる。従つて、右得べかりし給与収入の喪失は本件交通事故による損害と認めるのが相当である。

(二) 松重工業所関係

〔証拠略〕によれば、原告は例年漁閑期である一〇月から翌年二月までの間、他に雇用されて働くことにより賃金収入を得ていたこと、昭和四二年一〇月から翌四三年二月までの期間については敦賀市松島所在の松重工業所に日給一、九〇〇円で雇用されることが予定されていたところ、本件交通事故による受傷のため稼働不能になつたことが認められる。漁閑期に賃金労働に従事することは原告居住地域においてかなり一般的なものであることが認められるから、右得べかりし給与の喪失もまた本件交通事故に基く損害というべきである。しかし右のような副業的勤務について月間実働日数が常に二五日に達するかどうか疑問であるから、この点をひかえ目にみて二〇日間とし、五ケ月分合計一九〇、〇〇〇円を本件交通事故による損害と認めるのが相当である。

(三) シイタケ栽培関係

〔証拠略〕によれば、原告は副業としてシイタケ栽培をおこなつていたが、本件交通事故による負傷のため原木の管理をおこなうことができず、昭和四二年度および昭和四三年度は収穫が皆無に近かつたことが認められる。原告は、これによつて失つた得べかりし利益は三〇〇、六九〇円であると主張し、〔証拠略〕によれば一応右金額を算出できないことはない。しかし同時に〔証拠略〕によれば昭和四二年度における原告のシイタケ栽培規模は前年度にくらべ五倍以上に拡大していることがうかがわれるから、原告一人の労働力で前年度と同じような収穫を期待できたかどうか疑問が生ずるし、シイタケ栽培の事業としての安定性の程度、代替労働力によつて損失の拡大を防止することができなかつたかどうか等不明確な点が多いから、損害額の算定はひかえ目にしなければならない。よつて、諸般の事情を考慮のうえ、シイタケ減産による逸失利益は両年度あわせて一五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  精神的損害

原告が本件交通事故による負傷によつて蒙つた精神的苦痛は、前認定の傷害の部位程度、入院通院日数および〔証拠略〕によつて認められるところの、右傷害の治癒が長びいたのは、もともと原告の体には一種の骨の変形が潜在していたことによるという事情等に鑑み、金銭に換算すると金三〇〇、〇〇〇円に相当すると認める。

六  過失相殺について

〔証拠略〕によれば、本件事故現場は幅員四・八メートルの原告運転車両通行道路に対し、幅員二・四メートルの被告末友運転車両通行道路が直角に交差した交差点であり、相互に見とおしがきかないことが認められる。被告らは、原告が右交差点を直進するに際し徐行しなかつたことは道路交通法第四二条に違反すると主張する。しかし右交差点は、右に認定したように、原告通行道路の幅員が被告末友通行道路の幅員の二倍もあり、従つて、原告は同被告に対し同法第三六条による優先通行権を有していたといわなければならない。この場合原告が同法第四二条の徐行義務をすべての面で免れるかどうかはにわかに断定し難いが、少くとも車両対車両の関係は専ら同法第三六条によつて規制されるべきであり、従つて原告が徐行しなかつたことをもつて本件事故発生の一因とみることは正当でない。またこのことは、原告が相手車両の前照灯の光芒を認めていたとしても変りはない。なぜなら自己が優先道路を通行している以上、右光芒は何ら具体的な危険の存在を推測させるものではないからである。よつて、被告らの過失相殺の抗弁は理由がない。

七  損害の填補

原告が、被告末友から本件損害賠償債務の一部弁済として金三七、五六五円の支払を受けたこと、自動車損害賠償保障法による損害賠償額として四六二、四三五円の支給を受けたことは当事者間に争いがない。従つて、右金額は前認定の損害額から控除されなければならない。

八  弁護士費用

原告が本訴の提起および追行につき弁護士を依頼していることは訴訟上明らかであり、〔証拠略〕より原告主張のような報酬契約が結ばれていることが認められる。よつて右費用のうち一四一、三四八円につき一種の積極的財産損害として本件交通事故との間に因果関係を認めるのが相当である。

九  結論

そうすると、原告の請求は被告らに対し各自金一、五五四、八二八円の損害賠償金およびこれに対する不法行為後である昭和四四年一二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よつて原告の請求中右理由ある部分を認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 清水信之)

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